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今年のウバのお話

 こんにちは、あるいはこんばんは。早稲田大学文化構想学部3年の森山です。3年ですが今年から入会した新米の幹部(?)です。どうぞよしなに。


 何を書こうか悩みましたが安直に、今年の紅茶のお話をすることにします。今年はウバの美味しさに目覚めた年でした。KUREHAの学祭で提供したスイートロイヤルミルクティーもウバでしたね。さて、今年のウバというと個人的に思い出さざるを得ない事件があります。



 秋ごろ人生初のアルバイトをしようと思い立ち、いいお店がないだろうかと飲み歩きバイト先探しをしていました。そんな折、素敵な紅茶屋さんをKUREHAのお茶会にて教えていただきました。場所は高円寺、Threeというお名前の小さなお店です。家から一駅ほどだったので、のんびり歩いてゆきました。



 Threeさんは、バーのような雰囲気の中、店長さんがバーテンダーのように気さくにお話ししてくださるお店でした。カウンター席でスコーンをつまみに紅茶を一杯、二杯。さらにもう一杯……、と店長さんにおすすめを聞いている最中、ふと足元のカバンに目がいきます。そろそろ懐事情が心配になってきました。お支払いは現金のみなので、頼みのクレカは使えません。

 そこで、ある違和感を覚えました。バッグからのぞく、財布だと思っていた青地の物体がやけに小さいのです。札は折らない長財布派、こんなに小さいわけがない。一気に今まで飲んだルフナの味とキームンの香りが込み上げ、冷や汗がにじみます。おそるおそるバッグの中を見れば、そこには青色のポーチとハンカチが仲良く並んでいるのみ。


 財布、忘れた……!


 店長さんに平謝りすれば、「次に来た時にお支払いしてくれれば」などと神か仏のようなことをおっしゃる。初来店で食い逃げ、もとい飲み逃げなど、仮に店長さんが許してもこの私自身が許せない。スマホを人質に差し出して「次はウバでお願いします!」と反射的に言い残し、私はお店を飛び出しました。(直後バッグごと家の鍵をお店に忘れたことに気づき、ものの数秒で帰ってきたことは内緒です。)


 首に巻いたリボンもパンプスもおよそ走るのには向いていませんが、なりふり構っていられません。全力疾走で自宅に転がり込み、財布を掴んで、リボンを振りほどき、ヒールも脱ぎ捨てスニーカーにチェンジ。そして来た道をまた全力疾走。息も絶え絶えにお店の扉を開けた私に、店長さんは「お早いお帰りで」と苦笑い。「ウバでよろしかったですか」との問いかけに声も出ず、うなずき返しました。はあ、ウバ最高。一口含めば、花のような香りと爽やかな渋みが広がります。これだけやらかしても、一杯の紅茶はすべてを忘れさせてくれるものです。……そう、アルバイトの件も。私はすっかりこのお店に足を運んだ理由を忘れていたのでした。第一、こんなマヌケをさらして「アルバイトしたいんですけど……」などと切り出せる鋼のメンタルも財布も持ち合わせておりません。



 というわけで、「ウバは美味しい。今年のウバはめちゃくちゃ美味しい」というお話でした。ちなみにこの記事を書いている間、ヴィヴァルディ「四季」より「冬」第一楽章を聞いていたのですが、あの日の脳内はまさにこの曲の通りでした。今の時期にぴったりですので、よろしければ聴いてみてください。では。

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