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発酵について 後編

更新日:2022年12月21日

この記事は後編になります。前編はこちらからご覧ください。


発酵紅茶を作ろう

 皆さんはコンブチャを知っていますか。コンブチャとは紅茶にアルコール発酵と酢酸発酵による複合発酵をさせた発酵飲料です。この酵母と酢酸菌を合わせたものをSymbiotic Culture Of Bacteria and Yeastの頭文字を取ってスコビーと呼びます。

 この時の発酵経路ですが、初めに紅茶に加えたグルコースを元にして酵母がエタノールを作ります。次にこのエタノールを材料にして酢酸を生成することで酸味と若干の甘みがある紅茶ができます。このようにエタノールは酢酸菌が分解してくれるため、アルコール度数は0.5%以内に収まり酒類に分類されません。

 言ってしまえばお茶の発酵とアルコール発酵と酢酸発酵を合わせたもので、長い間作ってみたい!と思っていました。しかしなかなか腰が挙げられずにいたので、今回の記事をきっかけに作ってみたレポートを記そうと思います。


 流石に研究室の微生物を持ち帰ることは不可能なため、通販でスコビーを購入しました。この他に煮沸できる瓶と清潔な布、茶葉と砂糖を用意します。また、以下の過程は空気中に存在する雑菌の混入を防ぐため手袋を着用し清潔な操作を心掛けています。この操作によりスコビーにとって栄養のある培地ができるため、空気中の雑菌が混入するとスコビーと同じように繁殖してしまいます。


1.(我々と同じで)微生物はカフェインを摂取し続けないと生育できません。正確には、栄養素である窒素源が微生物の生育に必要であり、カフェインは窒素源となります。そのため任意の茶葉を800ml程度濃い目に抽出します。今回は雑味の少ないニルギリを選択しました。

2.砂糖を80g入れます。かなり量が多いですが、前述のように発酵され酢酸に代わるため控えめな甘さになります。

3.煮沸消毒した1Lの瓶に注ぎます。高温だとスコビーが死滅してしまうため、瓶と紅茶を体温程度になるまで冷まします。

4.スコビーを入れ清潔な布で蓋をします。私は医療用のリント布を使用しました。この時アルコール発酵によってCO2が発生し、内圧が高まることで破裂の恐れがあるので密閉をしてはいけません。

5.10日間程度直射日光の当たらない清潔な場所で放置して完成です。私は匂いが映らないように整理した食品棚で培養しました。


 培養前の写真です。反射が見苦しく申し訳ないですが、水面近くに注目すると色が変わっているのが分かります。これがスコビーです。この時のスコビーがキノコのように見えることから、コンブチャは紅茶キノコという別名が付いています。後ろにコンロが見えますが、点火して空気を温め上昇気流を発生させることで雑菌の混入を防ぐのに使用しました。ちなみに、私は実験中に培地を見て紅茶と思ってしまうことが多々あるのですが、これは紅茶か培地のどちらなのでしょうか。

 私物のpH試験機で発行前の紅茶を測定しました。pHは6.0~7.0の間です。ここから酢酸が産生されるためpHは下がることが予想されます。

 10日後、食器棚から取り出すと最初に強烈な酢酸香がしました。視認しづらいですがスコビーは沈殿していました。また、カビの混入も確認できません。紅茶に含まれるカフェインですら窒素源としてしまうくらい劣悪な培地にもかかわらず、増えは良いと感じました。普段実験室で扱っている微生物と異なり天然由来の微生物なので、栄養要求性(遺伝子の変異)を考慮しなくても良いからでしょうか。

 取り出してpHを計測すると3程度にまで低下していました。

 以上の結果から、無事に複合発酵が成功したと考えられます。

 グラスに注いでみました。スコビーが入っているため、クリームダウンでは説明できないくらい白濁しています。


 飲んでみると全くアルコールの風味は感じられませんでした。香りは黒酢のようでしたが、甘味と酸味のみに注目すればクランベリージュースの様にも思えます。全体的な味わいとしてはコクやまろやかさがあり飲みやすいと感じました。個人的にはもう少し酸味が強い方が好みですが、この点は冬場なので発酵速度が遅かったことが反省点として挙げられます。この後に炭酸割りを試したところ、酢酸香が和らぎ清涼感が増したのでおすすめです。


 作ってみての感想ですが、やはり発酵食品は大変であり面白いですね。今まで培ってきた滅菌操作の手法がここで役立つとは思いませんでした。私の家にはpHを正確に測れる検査機や、完全滅菌で操作が可能な装置や、理想環境で培養できるインキュベーターも無いためこれほど研究室の設備を使いたいと思ったことは初めてでした。

 ちなみにスコビーは再利用できます。コンブチャ作りを繰り返す度に増えていくので古いスコビーは処分し、持て余したものは作ってみたい人に押し付けましょう。今後はカットフルーツを加えて二次発酵をしたり長期間培養をしてビネガーとしても使用してみたりしようと思います。是非皆さんも作ってみてはいかがでしょうか(決まり文句)。

 

 以上になります。修士論文は全く進んでいないのにも関わらずこちらは快調に筆が進みました。なぜ私は専門から若干逸れている論文を、しかも修論の追い込みの時期に読んでいるのでしょうか。本当はコンブチャを作るよりも先にぬか床デビューをしたかったのですが、研究室でのコンタミネーションによる実験失敗が怖いのでできていません。その為、三か月後に私が無事に卒業出来たらぬか床デビューを鮮やかに決めて納豆を沢山食べたいですね。このような野望を抱いているのは私くらいでしょう。発酵と腐敗は表裏一体で、細菌やカビを培養するためにコンブチャをはじめとした発酵食品は危険だと考えている方もいますが、正しく付き合えば決して怖いものではありません。この記事をきっかけに発酵に興味を持っていただけたら幸いです。

 それでは今年もありがとうございました。よいお年を!


My Best Teas

 私は好きな紅茶を聴かれたら一般の方にはダージリン、紅茶好きにはマーガレッツホープ茶園の2ndと答えています。しかし、今回は折角なので近況のお話を。

 今年はフレーバーティーの沼に沈んだ年でした。その中で見つけたのが横浜のラ・テイエールというお店です。元々私の推しの声優の永塚拓馬さんがこのお店の協力の元でオリジナルティーを出した経緯から名前自体は知っていたのですが、ここのお店の紅茶を飲んだのは実は最近になってからです。中でも私のお気に入りは「横浜元町クラシック」という名前の、ジャスミンとダージリンのブレンドティーです。まだまだフレーバーに関しては勉強中の身ですので、おすすめのお店やお茶の布教をお待ちしています。


おまけ

前後編合わせてかなり長々と語ってしまったので、真菌と乳酸菌が発酵する後発酵茶について紹介しようと思ったのですが没になりました。このお茶について知りたい方はこちらの産総研の記事がおすすめです。そして読み終えたら四国へ行きましょう。


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